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山形家庭裁判所 昭和31年(少イ)6号 判決

被告人 岡崎教吾

被告人 岡崎ミヨシ

主文

被告人岡崎教吾、同岡崎ミヨシはいずれも無罪

理由

本件公訴事実は

被告人両名は、新潟市本町通り十四番町三、〇五二番地で特殊飲食店「竹駒」を営んでいるものであるが、両名共謀の上、昭和三十年八月三日頃接客婦として雇入れたB(昭和十二年八月二十三日生)(当十七年)をしてその翌日頃から、同月十五日頃までの間、前同所に於て、不特定多数の遊客に売淫せしめ、以て児童に淫行をさせたものである、(罪名罰条、児童福祉法違反、同法第三十四条第一項第六号、第六十条第一項、刑法第六十条)

というのである。

そこで、証拠を検討して見ると

被告人両名は夫婦であつて、新潟市本町通り十四番町三、〇五二番地特殊料理店「竹駒」を営んでいること(被告人両名の当公廷における各供述、新潟市公安委員会の昭和二十六年十月二十六日附岡崎教吾に対する特殊料理店の営業許可書)、被告人岡崎教吾が昭和三十年八月三日頃山形県より、昭和十二年八月二十三日生(証第一号戸籍記載事項証明)のBを前記「竹駒」に連れてきて被告人岡崎ミヨシに引合せ、被告人両名ともBを接客婦として「竹駒」で使う気持が働いたこと(証人Bの当公廷における供述、Bの検察官に対する昭和三十一年十一月二十三日附、岡崎教吾の検察官に対する昭和三十一年十一月十二日附、岡崎ミヨシの検察官に対する昭和三十一年十一月七日附各供述調書等)はこれを認めることができる。

ところで、両名共謀して、Bをして、翌四日頃から同月十五日頃まで、不特定多数の遊客に売淫せしめたかどうか、の点であるが、先ず期間の点については、Bが第一回目に「竹駒」に居た期間は、前述の、昭和三十年八月三日頃「竹駒」にきて同月九日頃被告人岡崎ミヨシに新潟駅まで見送られて福島県平市にゆくため新潟市を立去り、その後同年八月末頃再び「竹駒」にきて住込むようになつたことが認められる(証人Bの当公廷における供述、被告人岡崎ミヨシの検察官に対する昭和三十一年十一月七日附供述調書、平市商工祭協賛会長よりの証明書等)ことよりして、起訴状記載の公訴事実にある、昭和三十年八月四日頃より同月十五日頃までではなくして、昭和三十年八月四日頃より同月九日頃までの間でなければならない。そしてその間Bに売淫行為をさせたかどうかについてであるが、この点主たる証拠は証人Bの当公廷における供述及びBの司法警察員(B昭和三十一年十月十八日附、同月二十日附)並びに検察官(B子ことB昭和三十一年十一月十四日附、B昭和三十一年十一月七日附、B昭和三十一年十一月二十三日附、同月二十四日附)に対する各供述調書であるけれども、同人の右証言及び右各供述調書中この点に関する部分は、同調書全体として記憶の不正確な点もあり(検察官に対する昭和三十一年十一月二十四日附供述調書中、八月十六日の朝新潟をたつて平にいつた、翌十七日から平市でジャンガラ念仏踊があつた、との部分は弁護人提出の前記平市商工祭協賛会長よりの証明書によれば、同年のジャンガラ念仏踊は同年八月十日に行われている等)、又Bの当公廷における供述中、前に山形少年鑑別所に収容されたことのある事実を否定している点(山形少年鑑別所長よりの「少年の収容事実等の調査について」と題する書面)その他、証人伊藤アキイ、同高橋光江の各尋問調書、証人伊藤トシ子、同佐藤富子の各当公廷における供述を綜合して見ると、Bは嘘つきで法螺吹の性質があることが認められる等よりして、前記Bの各供述調書及び当公廷における証人Bの証言中、右期間中売淫をさせられたとの点は、にわかに信用し難いし、その他Bに右期間中売淫行為をなさしめたことを認めるに足る証拠もなく、一方被告人岡崎教吾の司法警察員に対する供述調書(昭和三十一年十一月三日附)検察官に対する各供述調書(昭和三十一年十一月十二日附、同月二十三日附)、被告人岡崎ミヨシの司法警察員に対する各供述調書(昭和三十一年十月二十四日附、同年十一月三日附、同月六日附)検察官に対する各供述調書(昭和三十一年十一月七日附)においても、当公廷においてもいずれも同事実を否定しており、被告人岡崎ミヨシの検察官に対する前記昭和三十一年十一月七日附供述調書中、前記Bが昭和三十年八月三日「竹駒」にきた折、被告人ミヨシにおいて同人の年齢をきいたところ、あと二十日で満十八歳になる旨述べたので、客を取らせず、掃除の手伝いなどをさせていて、その後教吾にきかれた際満十八歳になつていないから、同人を使うと又前の事件の様になる(被告人岡崎教吾に関する前科調書――昭和三十年十一月八日東京高等裁判所において職業安定法違反、婦女に売淫させた者等の処罰に関する勅令違反で懲役八月、二年間執行猶予――昭和三十一年五月十八日最高裁判所で上告棄却決定)というと教吾もそれでは仕方がないといつたので、ミヨシにおいてBに対し、年も若いから家で使うわけにはいかないから、一旦家に帰つて満十八歳になつてからきてくれ、又来るときは必ず戸籍抄本を持つてきてくれ、といつて帰すことにし、八月九日頃新潟駅発の汽車で帰らせた旨述べていること等、以上彼此綜合して考えて見ると、被告人両名共謀して十八歳未満の児童であるBをして売淫させたとの点については結局犯罪の証明が十分でないことになる。

よつて、被告人両名に対し、犯罪の証明なきものとして、刑事訴訟法第三三六条に則り、いずれも無罪の言渡をする。

(裁判官 中村憲一郎)

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